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広島地方裁判所 昭和47年(ワ)616号 判決

原告

鶴田友子

ほか三名

被告

堀江敏正

ほか三名

主文

被告堀江および同坂田は、各自、原告友子に対し八九万九、九四六円、原告ミネ子および同伸一に対し各一四二万二、三一三円、原告ヤノに対し五〇万円ならびに原告友子につき内金八一万九、九四六円、原告ミネ子、同伸一につき各内金一二九万二、三一三円、原告ヤノにつき右五〇万円に対する昭和四六年六月二〇日以降完済まで年五分の割合による各金員を支払え。

原告友子、同ミネ子、同伸一のその余の請求は、すべてこれを棄却する。

訴訟費用は、原告らと被告堀江および坂田との間においては、原告らに生じた費用の二分の一を同被告らの負担とし、その余は各自の負担とし、原告らとその余の被告らとの間においては全部原告らの負担とする。

この判決は、第一項にかぎり仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

(一)  被告らは各自、原告鶴田友子に対し、金一五二万八、六九九円及び内金一一七万八、六九九円に対する昭和四六年六月二〇日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  被告らは各自、原告鶴田ミネ子、同鶴田伸一に対しそれぞれ金二〇五万九、四〇四円、同鶴田ヤノに対し金五〇万円及び右各金員に対する昭和四六年六月二〇日から支払済に至るまでそれぞれ年五分の割合による金員を支払え。

(三)  訴訟費用は被告らの負担とする。

(四)  仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1(事故の発生)

訴外鶴田剛は、左記の交通事故(以下「本件事故」という。)によつて死亡した。

(1)  発生日時 昭和四六年六月一九日午前一時二分頃

(2)  発生場所 広島市松原町一〇番三二号先道路

(3)  加害車 普通乗用自動車(広島五そ二五七〇)

右運転者 被告 堀江敏正(以下、堀江という。)

(4)  被害者 訴外 亡鶴田剛

(5)  事故の態様 被告堀江が、右加害車を運転し、前記日時、場所を時速五〇ないし六〇キロメートルで西進中、当時、その前方道路上を右側より左側(北から南)へ歩行横断していた訴外亡鶴田剛に衝突させ、転倒させた。そのため、右訴外人は、脳挫傷、内臓破裂等の傷害を受け、同日、午前五時三五分、同市西荒神町所在武市病院において死亡した。

2(責任原因)

(1)  被告堀江の不法行為責任

被告堀江は、本件事故当時、酩酊(呼気一リツトルにつき〇・五ミリグラム以上のアルコールを保有)し、そのアルコールの影響により、到底、正常な運転が不可能な状態であつたから、自動車運転者としてこれを断念すべき注意義務があるにもかかわらず、これを怠つて運転を開始、継続したのみならず、自動車運転者として常に進路前方左右に対する安全を確認し、歩行中の通行人に対しては、徐行、停車の義務があるにもかゝわらず、制限時速を超過して漫然、時速五〇ないし六〇キロメートルで加害車を走行せしめ、被害者を自車前方数メートルの地点において、初めて発見し、急制動の措置を講じたが及ばず、前記のとおり被害者に衝突したものであつて、同被告は民法第七〇九条の責任。

(2)  被告坂田秀康(以下坂田という。)の運行供用者および共同不法行為責任

(一) 被告坂田は、本件加害車を所有し、これを自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条の責任。

(二) また、被告坂田は、酩酊している被告堀江に自己所有の本件加害車を運転せしめ、自らも同車に乗車していたものであるから、共同不法行為者として民法第七一九条の責任。

(3)  被告広島いすゞ自動車株式会社(以下単に広島いすゞともいう。)の運行供用者責任。

(一) 被告広島いすゞ自動車株式会社は、自動車及び同部品等の販売を業とする会社であつて、前記被告坂田を部品部課長として使用し、平素、同被告は本件加害車を自己の通勤に使用するほか、同被告会社の営業活動に使用しており、本件事故は被告坂田が被告堀江及び取引先関係者らと被告会社の取引業務打合せのために飲酒しての帰途発生したものであつて、同会社の業務ないし、これに関連した業務の執行中に発生せしめたものであるから、本件加害車を自己のために運行の用に供していたものとして、自賠法三条の責任。

(二) かりに、同被告会社が運行供与者に該らないとしても、被告坂田の使用者として民法第七一五条の責任。

(4)  被告株式会社久永洋行(以下、単に久永洋行ともいう。)の使用者責任

被告株式会社久永洋行は、自動車部品及び同付属品の販売等を業とする会社であつて、被告堀江は、被告株式会社久永洋行の広島営業所営業課長として、同社の営業活動に当つていた者であるが、取引先である被告広島いすゞ自動車株式会社の部品部課長被告坂田らと取引の打ち合わせをかねた親睦、慰労のため飲酒し、その帰途、本件事故を発生せしめ、被告株式会社久永洋行の業務ないし、これに関連した業務の執行中に本件事故を発生せしめたものであるから、同会社は民法第七一五条の責任。

3(損害)

(1)  亡鶴田剛の逸失利益

(一) 訴外亡鶴田剛は、日本国有鉄道を定年退職後、昭和四五年四月一日より広成建設株式会社広島支店に勤務し、事故直前の一年間(昭和四五年六月一日より同四六年五月三一日まで)、給料、賞与を合わせて、金六〇万五、五〇〇円の支給を受けていた。而して、同人は本件事故による死亡当時、五七才(大正三年六月二七日生)の健康体であり、本件事故がなければ、右会社の慣例と本人の希望によつて、少なくとも七〇才に達するまでの一三年間にわたつて就労し、毎年右同額の収入が得られたはずである。

そして同人の妻である原告鶴田友子も鉄道病院に勤務して収入を得ており、同原告も生活費を一部負担していたので、亡鶴田剛の生活費としては、月平均二万円、従つて年間二四万円を越えないものであつて、これを控除し、さらにホフマン式計算法によつて年五分の割合による中間利息を控除して現価を算出すると金三五八万九、五七五円となる。

(二) さらに訴外亡鶴田剛は、昭和四五年四月から国鉄共済組合より退職年金として年額金四三万六、一一二円の支給を受けており、該年金は本人が死亡するまで得られるものであるところ、五七才の男子の平均余命は一八・八五年(昭和四六年簡易生命表)であるから、同訴外人は右の期間、前記年金額の支給を受けることができたはずである。

而して、前記就労可能期間経過の生活費は、前同様月平均二万円年間二四万円を越えないものであるから、これを控除し、さらにホフマン式計算法によつて年五分の割合による中間利息を控除して現価を算出すると、金四八二万八、六三八円となる。

(三) 訴外亡鶴田剛の被告らに対する右合計金八四一万八、二一三円の損害賠償請求債権は、原告鶴田友子が妻として、同鶴田ミネ子、同鶴田伸一は子として、それぞれその三分の一に当る金二八〇万六、〇七一円を相続により取得した。

ところで、原告鶴田友子は、訴外亡鶴田剛が本件事故により死亡したことにより、亡剛の配偶者として国鉄共済組合より昭和四六年七月から年額金二一万八、〇五六円の遺族年金を支給されることゝなり、同原告の余命年数から見て、前記訴外亡鶴田剛の年金受給権喪失による損害賠償債権の相続分金一六〇万九、五四六円(右(二)の金四八二万八、六三八円の三分の一)は全額填補されることゝなる。よつて、同原告は、右(1)の逸失利益の相続分、金一一九万六、五二五円のみを請求する。

(2)  原告らの慰藉料

原告鶴田友子は、訴外亡鶴田剛の妻、原告鶴田ミネ子及び同鶴田伸一は同訴外人の子、原告鶴田ヤノは、同訴外人の母であるが、いずれも同訴外人の不慮の死によつて、筆舌に尽し難い精神的苦痛を蒙つたので、これを慰藉する金額としては、

1 原告鶴田友子につき 金一五〇万円

2 同ミネ子及び同伸一につき各 金一〇〇万円

3 同ヤノにつき 金五〇万円

が相当である。

(3)  葬祭関係費用

原告鶴田友子は、亡鶴田剛の葬儀を行い、葬儀費用(死亡診断書料を含む)として、金一八万三、五七一円を支出したほか、仏具購入費金一万六、〇〇〇円、追善供養費金二万九、二七〇円を支出した。

(4)  損害の填補

原告鶴田ヤノを除くその余の原告らは、自賠責保険金として金五〇〇万円の支払を受けたほか、被告堀江から見舞金として金二四万円の支払を受けたので、これを各相続分に応じて分配すると各金一七四万六、六六七円となるから、これを原告らの前記各損害額に充当した。

(5)  弁護士費用

以上により、原告らは被告らに対し、合計金五七九万七、五〇七円を請求しうるものであるところ、被告らはその任意の弁済に応じないので、原告らは、弁護士である本件原告ら訴訟代理人に本件訴訟を委任し、原告鶴田友子において着手金、その他の費用として金一五万円を支払つたほか、報酬として、同原告が金二〇万円を、本件判決言渡の日に支払うことを約した。

4(結論)

よつて、被告ら各自に対し、

(1)  原告鶴田友子は、金一五二万八、六九九円及び弁護士費用を控除した内金一一七万八、六九九円に対する本件事故発生の翌日たる昭和四六年六月二〇日から、

(2)  原告鶴田ミネ子、同鶴田伸一は、それぞれ金二〇五万九、四〇四円及び原告鶴田ヤノは、金五〇万円ならびに右各金員に対する本件事故発生の翌日たる昭和四六年六月二〇日から、

各完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する答弁

1  被告堀江

本件事故のあつたこと、事故の態様、同被告に原告主張の過失のあつたことは認めるが、損害の点は不知。

2  その余の被告ら

(一) 請求原因1について、(5)の事故の具体的態様は不知、その余の事実は認める。

(二) 同2の(1)について、被告堀江が酩酊のうえ本件事故を起したことは認めるが、その余の事実は不知。

同(2)について、被告坂田は認める。その余の被告らは、被告坂田が本件自動車を自己のため運行の用に供していたことおよび同被告の責任は不知、その余の事実は認める。

同(3)の事実のうち、被告広島いすゞの業務内容、被告坂田を使用していたこと、被告坂田が、広島いすゞの部品部課長であり、被告堀江および取引先関係者らと飲酒し、その帰途本件事故が発生したことは認める、坂田が本件自動車を通勤に使用していたことについて被告坂田、同広島いすゞは認めるが、被告久永洋行は不知、右自動車を被告広島いすゞの営業活動に使用していたことは被告坂田、同広島いすゞは否認、被告久永洋行は不知。

同(4)のうち、被告久永洋行の業務内容、同被告が被告堀江を使用していたこと、被告堀江が被告久永洋行の広島営業所営業課長であつて久永洋行の営業活動に当つていたこと、堀江が前記坂田と飲酒しての帰途本件事故を発生させたことは認めるが、その余の事実は否認する。

(三) 同3のうち、剛が国鉄退職後原告ら主張の会社に勤務し、昭和四五年四月一日から同四六年三月三一日まで総所得五五万七、七〇〇円を得ていたこと、少なくとも三年間右会社に就職しえたこと、原告ら主張の自賠責保険金五〇〇万円の受領、被告堀江から二四万円の受領の事実は認める。原告らの慰謝料については否認、その余の事実は不知。

三  被告坂田、広島いすゞ、久永洋行の抗弁

本件事故現場は、深夜でも車両通行の激しい道路であるから、横断歩道を通行するか、横断歩道でないところを通行する場合にも、左右の車両の進行に留意して通行すべきであるのに剛は、飲酒後、タクシーで帰宅しようとして加害自動車をタクシーと考え、横断歩道でない事故現場を小走りに、ななめに慢然と横断通行したものであつて、本件事故は同人の過失によるものであり、堀江は、かなり酔つていたが、剛を黒い物としてとらえ急ブレーキをかけており、前方に注意を払つていなかつたとはいえず、仮に堀江が正常な状態で運転していたとしても避けることができなかつたと考えられる程である。

四  原告らの答弁

本件事故現場が横断禁止の規制がなされており、歩行者たる被害者に横断歩道を通行するか、そうでない場合は、左右の車両進行に注意すべき義務があることは認めるが、その余の事実は否認する。本件事故は交通量の極めて少ない午前一時ころの事故であり、被害者が特にその注意を怠り、慢然と斜めに横断したものではない。

第三証拠〔略〕

理由

一  被告堀江の責任原因

原告ら主張の日時場所において、その主張の態様で交通事故が発生し、これによつて鶴田剛が死亡したこと、加害自動車の運転者であつた同被告に運転上の過失があつたことは同被告との間において争いがなく、右事実によれば同被告は不法行為者として右剛の死亡による損害を賠償すべき責任を負わねばならない。

二  被告坂田の責任原因

原告ら主張の日時場所における被告堀江運転の自動車による交通事故によつて右剛が死亡したこと、右加害自動車が被告坂田の所有で同人のため運行の用に供されていたことは、同被告との間に争いがなく、右事実によれば、同被告は自賠法三条に基づき右剛の死亡による損害を賠償すべき責任を負わねばならない。また後記事故の態様に照らし、被告堀江の前方不注視ないし安全運転を怠つた過失が推認されるので、被告坂田の免責を認めるべき余地は存しない。

三  被告会社の責任原因

原告ら主張の日時場所において、被告坂田所有の自動車を、同堀江が酩酊運転したことにより、亡剛死亡の交通事故が発生したことは当事者間に争いがなく、被告広島いすゞが自動車および同部品の販売を業とする会社で、部品部課長として右坂田を使用していたこと、同坂田が被告堀江および取引先関係者らと飲酒した後帰宅途中本件事故が発生したことは被告広島いすゞとの間で争いがなく、被告久永洋行が自動車部品および付属品の販売を業とする会社であつて、被告堀江を広島営業所営業課長として使用し、同被告会社の営業活動に従事させていたこと、同堀江が前記のとおり被告坂田らと飲酒した後帰宅途中本件事故を惹起したことは同被告会社との間で争いがない。

〔証拠略〕の結果、被告堀江敏正本人尋問の結果(ただし、後記信用しない部分を除く)、および弁論の全趣旨を総合すれば、被告坂田と被告堀江とは、被告会社ら間の取引で知り合い、数年来個人的にも親しく交際している間柄で、月二、三回位一緒に飲酒していたが、被告坂田は事故の前日である六月一八日午後四時過ぎころ、私用で妹宅を訪ねての帰途、本件自動車を運転し、被告久永洋行広島営業所に被告堀江を訪問したところ、同被告が広島いすゞを通じて納入したルームクーラーの買主の苦情を聞くこと、更に翌日納入予定になつていた機種を聞くため、いずれも当時の広島いすゞ営業所近くにあつた得意先を訪問する用件があつたため、堀江を同乗させて広島いすゞに帰社したこと、被告坂田の上司である部品部長訴外倉本忠は、同日五時すぎころ、同月一〇日以降広島いすゞのためキヤラバンとして東京から来広していた仕入先の訴外協同産業の社員である訴外小林正克および丸山時広の両名が仕事から帰つて来たので、坂田と共に広島駅ビルで飲酒するよう誘つたこと、そして坂田はたまたま前記用件を済まして立ち寄つた堀江を誘い、坂田運転の本件自動車に右四名が乗車して午後六時ころ駅ビルに行き五名で地下の自動販売機(コイン酒場)から酒、ビールを買つて七時ころまで飲酒したこと、堀江は倉本、坂田、丸山からビール、酒をおごられ、最後に自分で金を出して酒を飲んだこと、倉本はその場で坂田に車に乗らないように云い残して汽車で帰宅したこと、他の四名は互に誘い合つて更に飲酒することとし、坂田運転の右自動車に乗車して流川町に行き、ガレージに車をあずけて、午後八時ころ、堀江の行きつけのクラブ「じゆんこ」に行き、午後一〇時ころまで四名でホステス相手に飲んだり歌つたり踊つたりして遊び、代金一万九、〇三〇円を小林が支払つて店を出たこと、その後堀江の言葉づかいと右代金を支払わされたことから、小林と堀江との間に口論となり、堀江と小林は近くの「珠鎖」というクラブに飲みに行き、坂田は自分の行きつけのクラブ「河村」に行き飲酒し、丸山は両店を行き来していたが、午前零時前ころ、四名は「河村」に落ち合つて店を出たが、小林はホステスと約束があつてその場で別れ、坂田、丸山は酩酊してふらふらの堀江運転の右自動車に同乗し駅前で丸山を下車させた直後本件事故を惹起し、その間互にまとまつた業務上の話はしなかつたこと、坂田はホステスを介して堀江の上司である被告久永洋行の広島営業所長である訴外金子祐三を飲みに来るよう誘つたがことわられたこと、坂田は本件自動車を通勤に使用していたが部品部販売担当者は業務のため個人所有の自動車を使用することが禁じられ、これまでに業務に使用したことはないこと、もつとも福山支店に出張の折二回程本件自動車で福山まで行つたが、支店で会社の車に乗りかえて業務に従事したこと、本件事故の時以前にも、堀江に本件自動車を貸したことはあるが、プライベイトな使用のためで、被告久永洋行の業務のため貸与したことはないこと同被告広島支店には事故当時男四人、女一人の従業員でライトバン三台があり、広島いすゞにはベアリング、ルームクーラーを買つてもらう関係にあり昭和四六年前半期の月平均取引額は約九〇万円であり、広島いすゞから商品を買い受けることはなかつたこと、久永洋行広島営業所の接待費は毎月約四万円で、堀江が得意先と飲食した代金のうち、金子所長が営業上のものと認めたときはその代金を会社が負担し、これまで坂田と飲食したものの中で久永洋行が負担したものもあるが、プライベイトに飲食した場合は堀江が負担し、かつ坂田も二度に一度は負担していたこと、広島いすゞでは坂田が飲食した代金をこれまで会社が負担したことはなかつたこと、坂田は六月一〇日から一五日まで、および一九日は前記小林らのキヤラバンに同行したが、一八日は同行しなかつたこと、以上の各事実が認められ、〔証拠略〕中右認定に反する部分は前掲各証拠に照らして信用できない。

右認定事実によれば、坂田および堀江の事故前日の行動は少なくとも駅ビルのコイン酒場を出てからは被告会社らの業務とは全く関係なく、その後の飲食は各人のための単なる遊興に過ぎず、また本件自動車の運行を被告会社らの業務に関係づけることは誠に困難である。

〔証拠略〕には被告堀江が本件事故前被告坂田から本件自動車を二、三回借りて久永洋行の営業のため使用したことがある旨の証拠があるがたとえそうだとしても前記事故にいたるまでの事情から判断すれば、本件自動車の運転が被告久永洋行のためになされたものとは到底認められない。〔証拠略〕には坂田が本件自動車を広島いすゞの営業のため使用していたこと、堀江が営業活動として飲食した旨の供述があるが、いずれも前記のとおり措信しがたく、また堀江が坂田と翌日取り付けるクーラーの話をしたり、協同産業と競争したくない旨話した旨の供述があるが前記のとおりいずれも雑談の域を出るものではなく、また被告両会社が本件事故について責任を負うべき旨の供述があるが前記認定の経過に照らし、全く合理的根拠を欠くものといわねばならない。

その他、本件自動車の事故時における運行について被告両会社の運行支配ないし業務との関連性を容認すべき事実を認めるに足りる証拠はない。

以上の次第で、その余の点について判断するまでもなく原告らの被告両会社に対する請求は理由がないものといわねばならない。

四  被害者の過失

本件事故現場が横断禁止の規制のあるところであり、亡剛は横断歩道でない右事故現場を横断中であつたことは当事者間に争いがなく、これら争いのない事実と〔証拠略〕を総合すれば、本件事故現場附近には横断禁止の標識が立つていたが、亡剛は、本件事故現場を小走りに南から北に横断中センターラインの左側で右ラインよりをライトを下向きにし時速約五〇キロメートルの速度で進行してきた本件自動車の右前部に衝突、堀江は酩酊運転により、事故時、無意識にブレーキを踏んで停車したが、救助もしないでそのまま現場を逃走したこと、以上の事実が認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

右事実によれば、右剛にも本件事故に関し過失があつたものといわねばならず、後記のとおり、本件損害額算定に当つてこれをしんしやくするのが相当である。もつとも〔証拠略〕には剛に過失がなかつた旨の供述があるが、右認定事実に照らし合理的根拠を有するものとは考えられない。

五  損害

亡剛が、国鉄退職後原告ら主張の会社に勤務し、昭和四五年四月一日以降同四六年三月三一日まで、少なくとも五五万七、七〇〇円の総所得を得ていたこと、少なくとも事故後三年間右会社に就労しえたことは、いずれも当事者間に争いがなく、〔証拠略〕を総合すれば、亡剛は、大正三年六月二七日生れの健康な男子であつて、大正一三年一月三一日生れの妻である鉄道病院に勤務し、昭和四五年度一一三万〇、五四八円、同四六年度一三二万七、五九九円の所得を上げていた原告友子、養子である原告ミネ子、長男である原告伸一、母である原告ヤノと同居し、国鉄を定年退職後、昭和四五年四月以降訴外広成建設株式会社広島支店に勤務し、同年六月以降同四六年五月までの一年間に合計六〇万五、五〇〇円の給与および賞与を取得したこと、右会社の従業員は三百四、五十人の会社であり、定年は六〇年と定められているが健康な者は希望により、その後嘱託として稼働でき、嘱託になつた場合にも、給与は社員のまま移行し、昭和四九年五月ころ六四、五歳の人で十数人、七〇歳の人で三、四人が稼働しているが、最近の役員会で定年制を厳守しようという話が出されていること、右剛死亡時八、二〇〇円の退職金が支払われ、葬儀費用として原告友子は合計二二万八、八四一円を支出したこと、また右剛は、国鉄共済組合から昭和四五年四月以降年額四三万六、一一二円の退職年金の支給を受けていたが、本件死亡により原告友子に対し同四六年七月以降年額二一万八、〇五六円の遺族年金が支給されていること、以上の事実が認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

右事実を総合すれば、次のとおり認めるのが相当である。

1  亡剛の死亡による逸失利益

(一)  死亡後六〇歳に至るまでの三年間訴外会社における収入の逸失利益 一一五万七、五三四円

死亡前一年間の所得六〇万五、五〇〇円から三割の生活費を控除し(前記原告友子の所得その他を考慮すれば同人の生活費として三割を減ずるのが相当)、年五分の割合によるホフマン式計算方法により中間利息を控除して一時金を算出すれば、次のとおりである。

60万5,500円×0.7×2.7310(3年の係数)=115万7534円(円以下切捨て)

(二)  定年後六五歳に至るまでの五年間訴外会社における収入の逸失利益 一六三万五、〇四二円

原告らは七〇歳に至るまで訴外会社における稼働を主張するが、前記認定の諸般の事実から定年後六五歳に至るまで嘱託として稼働しうるものとみるのが相当であり(それ以上稼働しうる蓋然性は少くない)、その給与も社員のまま移行し減額されないことは前記のとおりであるので、その給与は定年時と同額とし、前同様三割の生活費を控除して年五分の割合によるホフマン式計算方法により中間利息を控除して死亡時の一時金を算出すれば次のとおりである。

60万5,500円×0.7×(6.5886……8年の係数-2.7310……3年の係数)=163万5,042円(円以下切捨て)

(三)  国鉄共済組合からの退職年金の逸失利益 四〇〇万四、〇二六円

五七歳の平均余命年数一九年間(昭和四七年度簡易生命表による)の退職年金から三割の生活費を控除したうえ、前同様の中間利息を控除して一時金を算出すると次のとおりである。

43万6,112円×0.7×13.1160(19年の係数)=400万4,026円(円以下切捨て)

(四)  以上合計 六七九万六、六〇二円

なお、剛の遺族は訴外会社から死亡による退職金を受領しているが、定年退職時にも相応の退職金の支払いがあるものと考えられるのに、前記逸失利益にはこれを含ましめていないので、死亡退職金は右逸失利益から控除しないこととする。

そして、前記認定の被害者の過失を考慮すれば、本件損害賠償額を算定するに当り、右逸失利益の一割を減ずるのが相当であり、その金額は六一一万六、九四一円(円以下切捨て)となる。

(五)  原告友子、同ミネ子および同伸一の相続

原告友子は、妻として、その余の右原告らは子として、それぞれ三分の一の割合で剛の遺産を相続するので、右逸失利益から各金二〇三万八、九八〇円(円位以下切捨)を承継したことになるが、原告友子は前記遺族年金の支給をうける関係上前記(三)の退職年金逸失利益の相続分は全部てんぽされるとして本訴で請求していないから、同原告の相続した逸失利益は前記(一)、(二)分八三万七、七七二円(円位以下切捨)となる。

2  原告らの慰謝料

本件諸般の事情を考慮すれば、原告らの各慰謝料は次のとおりに認めるのが相当である。

(一)  原告友子 一五〇万円

(二)  同ミネ子および伸一 各一〇〇万円

(三)  同ヤノ 五〇万円

3  原告友子の支出した葬儀関係費 二二万八、八四一円

4  損害のてんぽ

(一)  原告ら主張の保険金五〇〇万円および見舞金二四万円が支払われたことは当事者間に争いがないから、これを原告主張のとおり原告友子、ミネ子、伸一にその相続分に応じ同人らの損害額に充当し控除すれば、その残額は次式のとおり、原告友子につき金八一万九、九四六円、原告ミネ子、伸一につき各金一二九万二、三一三円となる

原告友子

83万7,772円+150万円+22万8,841円)-174万6,667円=81万9,946円(円位以下切捨て)

原告ミネ子および同伸一

(203万8,980円+100万円)-174万6,667円=127万2,313円(円位以下切捨て)

5  弁護士費用

原告らの弁護士費用に関する主張は、実質的にはヤノを除く原告らそれぞれが内部的に負担する趣旨の主張を含むものと理解でき、前記損害残額その他諸般の事情を考慮すれば、本件事故による損害としての各原告らの弁護士費用は次のとおり認めるのが相当である。

原告友子 八万円

原告ミネ子および伸一 各一三万円

6  結論

以上の次第で被告堀江および坂田は、各自原告友子に対し八九万九、九四六円、同ミネ子および伸一に対し各一四二万二、三一三円、同ヤノに対し五〇万円およびこれに対する(ただし、原告友子につき弁護士費用除く内金八一万九、九四六円、同ミネ子、同伸一につき同様の各内金一二九万二、三一三円)本件不法行為後である昭和四六年六月二〇日以降完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払をなすべき義務があるものといわねばならない。

よつて、原告らの被告らに対する本訴各請求は、右認定の限度で正当であるので、これを認容し、原告友子、同ミネ子および同伸一のその余の請求はすべて理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九〇条、九二条、九三条を、仮執行宣言について同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 五十部一夫 若林昌子 海老根遼太郎)

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